予測アルゴリズムに関する倫理的分析レポート

公共安全に係る予測アルゴリズムについての倫理分析レポート。

www.technicalsafetybc.ca

 

上記は、カナダのブリティッシュ・コロンビア州の安全当局(BC Safety Authority)を対象としたもの。行政の安全管理者(例えば送電システムの安全管理担当の職員)が、検査作業の優先順位付けなどを行う際、予測アルゴリズムやAIを意思決定支援システムとして利用すること(例えば、リスクの高そうな送電機器をAIがサジェストしてくれるので、それに基づいて現場に向かって点検を行う)を想定して、どのような倫理リスクがあるか、また、どのように対処すべきかを分析している。

人間の意思決定を支援する予測アルゴリズムは、作業の効率化などによって組織に多大な利益をもたらすことは間違いない。しかし、例えば以下のような倫理的課題があると指摘されている:予測結果がなぜそうなるのかすぐには説明できないなど、透過性が欠けている可能性がある。また、バイアスを含むデータセットを学習対象とすると、予測結果にもバイアスが潜在することが知られており、意図しない差別を招く可能性がある。さらに、従来の(人間だけの)意思決定過程と比べて、責任の所在が曖昧になったり、変わったりする可能性がある。この他にも、プライバシーや個人の自律、雇用への影響などの課題もある。

そこで、(1)明確な目標設定、(2)設計の透明性、(3)機械の自律性に関する決定、(4)モニタリングの実践、(5)コミュニケーションの実践、の5点を推奨事項としている。

 

ところで、文責の Generation R は、昨年に設立されたロボット・AIの倫理に関するコンサルティング企業らしい。

genr.ca

 

当局が予測アルゴリズムやAIを導入する時に、どのように倫理リスクを特定して対処するべきかのケーススタディが紹介されていて、面白いし参考になる(しかし「Comprehensive Ethics Assessment (CEA)」かあ…)。

genr.ca

 

共訳『ロボット法』 が公刊されました

訳者の一人として参加した、ウゴ・パガロ著『ロボット法』(勁草書房) が1月30日に出版されました。
ロボット・AIと法を考えるフレームワークとして参考になると思いますのでよろしくお願いいたします!

www.keisoshobo.co.jp

新保先生、松尾先生、赤坂先生、本当にありがとうございます。また、多くの方々にご指導・ご支援をいただいたことに心より御礼申し上げます。特に、勁草書房編集部のYさまには長期に渡りご苦労をお掛けいたしました。感謝いたします。

f:id:inflorescencia:20180207172004j:plain

 

関連して、2月4日より『ロボット法』刊行記念フェアが大阪の紀伊國屋書店梅田本店さまにて開催されています。

www.keisoshobo.co.jp

法律書だけでなく、理工、人文・社会学、文芸まで必読文献81冊をセレクト。推薦コメントが載っているブックガイドも無料で配布されています。「ロボット・AIと生きる社会」を考えるきっかけになれば幸いです。

 

 

【2/20 追記】「基本読書」の冬木糸一 (id:huyukiitoichi)さんに書評をいただきました。ありがとうございます!

huyukiitoichi.hatenadiary.jp

【法務系 Advent Calendar 2015】法務と公共政策 #legalAC

※本稿は、法務系 Advent Calendar 2015 の参加エントリーです。

かつて柴田先生が「法律家によるルールメイキング関与の可能性はあるか??」という問題提起をされていました。そこで、公共政策の立場から法務との関係性について少し考えてみたいと思います。

 

■公共政策は何であって、何でないか

法律家(法務部と弁護士)の皆さまであれば、同じ「法」を扱っているとはいえ、法務と公共政策がどこか違っていることを肌感覚でお分かりかと思います。大まかにいえば、公共政策(渉外)はルール・メイキングによる政策課題の解決を目指していることが多いです。ロビイングやパブリック・アフェアーズなどを行います。

  • 公共政策/渉外:政策課題の解決のために、ロビイングやパブリック・アフェアーズなどを通じて、 意思決定者やステークホルダーと交渉し合意を形成すること

  • ロビイング/ガバメント・リレーションズ(GR):政策課題の解決のために、政府・議員などと関係性を構築し交渉すること*1

  • パブリック・アフェアーズ(PA:政策課題の解決に向けて、公正・透明な方法で関係性を構築し合意形成などを行うこと*2

法務以外に公共政策が隣接・協働する領域として、広報、マーケティング、経営企画などが挙げられます。それぞれの異同についても見てみましょう。

  • 広報/パブリック・リレーションズステークホルダーとの良好な関係を構築するための対話活動全般。狭義では、マスメディア向けの活動を指すことが多いため、パブリック・アフェアーズと区別されます*3

  • マーケティング:組織や商品を売り込むためのコミュニケーション・製品・販路・価格戦略などの総合的な計画立案および実行活動をいいます。売り込みたい対象が政党・立候補者・政策である場合は、政治マーケティングなどと呼ばれ、パブリック・アフェアーズと近くなってきます

  • 経営企画:経営課題の解決のために、経営戦略を計画・立案し、その戦略を実行すること。企業のための公共政策活動は、政策課題の解決によって最終的に経営課題の一部を解決することにつなげるべく行われます 

 

■公共政策で何をしているか

上記で見たとおり、公共政策は、政策課題の解決のために、ロビイングやパブリック・アフェアーズなどを通じて、 意思決定者やステークホルダーと交渉し合意を形成するための活動をします。

具体的にどんなことをするかというと、まずは政策課題の「発見」です。もちろん、「Airbnbに代表されるシェアリングエコノミーというイノベーション産業」と「旅館業法」のように、法務部門や顧問弁護士の皆様の的確なアドバイスによって、経営上問題となる既存法令がはっきりしていることもあります。しかし、政策課題になるかまだよくわからないけれど、ともかく「頭が痛い」問題についてご相談を受けることもあります。その場合は、与件の整理や課題の設定など、問題を解きほぐしつつ目標と業務範囲を決めるコンサルティングを行います。このあたりの頭の働かせ方は、法務部の方の紛争対応と似ているところがあるかもしれません。

政策課題の輪郭がつかめてきたら、次は、交渉や合意形成をすべきステークホルダーを特定します。この部分が意外と骨の折れる作業であることも多いです。政策立案や規制緩和では行政や議員の皆さまを対象とすることが多いですが、案件によっては、NGONPOの皆さんなどとの関係性構築も行います。ステークホルダーを動かす人(学識経験者、業界団体など)の分析も忘れずに行い、間接的な働きかけも視野に入れておきます。

相手の顔が見えてきたら、情報収集をしつつ、戦略と計画を立案をします。多くの場合、「地上戦」と「空中戦」を密接に関連させて行うように調整します。すなわち、マスメディアなどを介して世論喚起やイシュー喚起を行って「空気づくり」「話題づくり」をしつつ、政府/政治/業界のメカニズム、タイミング(政治日程、政策日程)をにらみながら、実務担当者と個別的な交渉も進め、社会的な合意形成を行います。

このとき、主張やイシューを支えるファクトの収集・調査も必要になります。これはクライアントの主張の裏を取る、証拠で確認することと似ているものの、足りなければ追加調査などを行って試算したりもできるというプロスペクティブ(前方視的)な作業です。レトロスペクティブ(後方視的)な厳密さが求められているわけではありません。

加えて、法案を実際に作成・提案することもあります。ただし、いわゆる「ヨコのものをタテにする」法制執務能力は、非常に稀少なリソースのため、ヨコ書きに留まることもしばしば見受けられます。

最後は、計画の実行と見直しです。交渉の相手方からの意見や情報を受け止めて、必要であれば、主張を変更したり、戦略を見直します。世論の場合は、紙面の論調分析やソーシャル・リスニングを行って、フィードバックを受け取ります。適宜修正をかけつつ、 最終的にゴールである政策課題を解消します*4

さらに、交渉や合意形成の前提となる信頼性を構築するという意味で、レピュテーション・マネージメントも公共政策の業務範囲に含まれることがあります。実は、公共政策と法務の対立軸が最も鮮明になるのが、この局面です*5。「世間やステークホルダーからの評価」と「法的責任」は、異なるロジックで変動します。どちらをどのくらい重視するかは経営判断そのものであり、ビジネスそのものに踏み込むことになると痛切に感じている次第です。

 

■法律家への期待

冒頭の問いに戻りましょう。「法律家によるルールメイキング関与の可能性はあるか??」という問いに対して、「既に関与しているのでは」というお答えを返したいと思います。経験上、政策課題の発見やステークホルダーの特定などは法律家の皆様に助けて頂くことが非常に多いです。また、私見となりますが、法律家の方は交渉の知見を豊富にお持ちだったり、「第三者」を巻き込むノウハウや運動論を会得されている方が多い気がします。それらは、ロビイングやパブリック・アフェアーズの実践に資するものだと思います。

たしかに現状として公共政策分野は、元官僚の方やPRパーソンが多いですが、今後は法律家の皆様にも参入して頂きたいと期待しています。

*1:後述するパブリック・アフェアーズが世論形成やイシュー喚起など「空中戦」を主軸とするのに対して、基本的には1対1での直接的な(そして多くはクローズドな)対話が基本となるため「地上戦」と喩えられます

*2:政府・議員・NGOなどを相手方とするパブリック・リレーションズともいえます。少しB2Bセールスに似ています

*3:(業種などにも左右されますが)B2Cマーケティングと近い関係があります

*4:上記のほかにも、パブリック・ディプロマシーとしての国際渉外や、標準化等に参画する技術渉外など、業務は多岐にわたり、それぞれ専門職能となっていたりします

*5:ステークホルダーとの合意形成やレピュテーショナルリスクと、法的責任の問題は、別の問題と考えるのが基本線である、過大な法的責任まで受け入れることは株主から責任追及を受けるリスクを負うことになる」というご指摘も参照

社会情報学会学会大会のワークショップで司会と報告をしました

2015年社会情報学会学会大会のワークショップ「『情報社会論』の変遷と再編――統治の再設計に向けて」で司会と報告をしました。

一緒に登壇してくれた、成原慧先生、尾田基先生、西田亮介先生、そして参加された皆様、どうもありがとうございました!

 

続きを読む